1回目のブルーノートジャズ・フェスティバル・イン・ジャパンの目玉の一つが、パット・メセニーとエリック・ミヤシロが指揮するブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラの共演だった。そして、1年置いた今年は同オーケストラとデヴィッド・サンボーンが四つに組んだステージが披露される。
アメリカ人と日本人の両親のもとハワイで育ち、バークリー音楽大学を卒業。その後、東京で活動するようになったエリック・ミヤシロは現在の日本のビッグ・バンド・シーンの隆盛を導いた、その立役者と言うにふさわしい。
「ビッグ・バンドは大好きで、僕の母体と言えるものかもしれません。ジャズのコンボには、即興の楽しさがあります。一方、オーケストラには大きな編成の管弦楽アンサンブルの楽しさがあります。そして、ジャズのビッグ・バンドはその両方を楽しめるじゃないですか。だから、ビッグ・バンドというのは最強の音楽形式ではないかと思う所もあります」
大学を出て7年もの間アメリカで活動していた彼が日本に住むのは、ツアーに追いまくられる多忙さから少し離れようと、東京に住む祖母を訪ねたのがきっかけだった。
「1ヶ月ぐらい居候させてとやって来たんですが、すぐにいろんな方と出会って、仕事を頼まれるようになりました。そして、気がついたら、28年もたってしまいました。妻と出会い、子供も二人いまして、第二の故郷ですよね」
「やはりビッグ・バンドがおもしろい」と、シーンの立役者らしい発言にフェスへの期待も高まる。
photography = Great The Kabukicho
そんな彼は自らの楽しみのために1995年に腕の立つ仲間を募り、自らのビッグ・バンドであるEMバンドを結成。そして、2013年にこの理想のオールスターのバンドを開始した。
「名前の通りに、本当にオールスターによるバンドです。もう皆さん一人一人がバンマスをしているような、スター・プレイヤーたちが集まっています。声をかける傾向としては、自分の色を強く持っている人が僕は好きですね。というのは、どうしてもアンサンブルを取る際、同じ色の奏法を持っている人が4人(セクションとして)集まるとぴったり合うんですけど、どこか薄くなるんです。なんかシンセサイザーみたくなってしまう。なので、4人とも違う感性を持った人たちが集まって演奏した方が、すごい豊かな感じになるんです」
同オーケストラは定期的にブルーノート東京で公演を持ってもいて、その際はドラマーのピーター・アースキン、ベーシストのリチャード・ボナ、ピアニストのイリアーヌ・イリアス、トランペッターのジョン・ファディスといったように、公演ごとに海外の個を持つ奏者をゲストに招いている。また、彼らはモントルー・ジャズ・フェスティバルに出演もしており、今の日本人ビッグ・バンド表現を世界に発信する役割も担っている。
モントルー・ジャズ・フェスティバルでのブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ
「海外のスター・プレイヤーと日本のスター奏者たちをぶつける。それは、新しい形であり、僕にとっての転機にもなっています。それまでは、自分がフロントにいて、自分の演奏がメインだったのが、現在は音楽監督、アレンジャー、プロデューサー的な新しい自分への挑戦になっていますから」
ところで、今回共演するデヴィッド・サンボーンについて、彼はどんな所感を持っているのか。
「それはもう、楽器を始めた頃からのファン、まさに憧れの人です。今まで接点がなく、共演したことは20年前に1度しかないんです。そんなデヴィッドさんを迎えられるという事で、一ファンとして舞い上がっている状態です」
ちなみにパット・メセニーと共演した際は事前に多々やりとりをし、また日本で周到にリハーサルを行った後に本ステージに臨んでいる。そして、サンボーンとの今回も、同様の手順が取られる。
「ほぼ曲目の候補は出てきていて、今は最終調整の段階で、これから今回やる曲のアレンジを僕がします(注:話を聞いたのは8月上旬)。メセニーさんの時もそうですが、今回もデヴィッドさんの、往年の名曲をアレンジしてやりたいと思います。意外とデヴィッドさんはビッグ・バンドとのコラボレーションというのは多くないので、彼の新しい姿を導きたいですね。とともに、やはり僕たちのバンドがただのバック・バンドにならないような、意義のある共演にしたいです。とはいえ、あまり練り込むようなことはせず、お互いが伸び伸びと自分をぶつけられるようなステージを、僕は作ろうと思っています」
ビッグ・バンドでプレイするサンボーンは珍しい。ここでは’96年のクインシー・ジョーンズのバンドでのパフォーマンスをご紹介。
日本を代表する凄腕が勢揃い、エリックさん自らバンドメンバーの魅力をご紹介します!
本田雅人(サックス)サックス隊のリーダーですね。彼は僕が日本に来た当初からの音楽仲間で、ジャンルを問わずいろんな音楽を彼とやって来ました。本当に信頼できるソリストですね。
近藤和彦(サックス)小曽根真さんとか、守谷純子さんのビッグ・バンドで彼はリーダーをしているサックスの第一人者です。本田くんとともに、本当に信頼できる方というしかありませんね。
小池修(サックス)大好きなソリストです。だから、彼がメイン・ソリストみたいな感じで、僕は多くの曲でフィーチャーしています、今回もぜひ彼のソロ・プレイをお楽しみいただきたいです。
庵原良司(サックス)今いろんなサポート・ツアーとか、自分のリーダー・ワークやスタジオ・ワークとか、本当にいろんな所で活躍なさっている、若手No.1のプレイヤーですね。
竹村直哉(サックス)バリトン・サックス奏者で、彼もいろんなバンドで大活躍しています。バリトンだけではなく、様々な木管を担当しているマルチ・プレイヤーでもあり、信頼していますね。
佐久間勲(トランペット)トランペット・セクションは今回素晴らしいメンバーを集められました。佐久間さんは長年リード・トランペットをし、いろんなバンドで大活躍されている素晴らしい方です。
奥村晶(トランペット)ジャズ・プレイヤーとしてもリード奏者としても、またスタジオでも活躍。あと、国立音楽大学で教鞭をお取りになっている、とてもマルチな才を持つ、秀でた奏者です。
小澤篤士(トランペット)彼もトロンボーンの庵原さんのように30代半ばの年齢で、今引っ張りだこの、リード・トランペッターです。(1983年生まれ。エリックに憧れ、ジャズ・トランペッターを志した)
二井田ひとみ(トランペット)二井田ひとみさんは一押しの、すごいトランペッターです。こないだ一緒にやったジョン・ファディスも惚れ込んだ素晴らしいソリストであり、セクション・プレイヤーです。
村田陽一(トロンボーン)自分のワークや貞夫さんのビッグ・バンドを率いたりと、いろんな所で大活躍されています。彼も昔からの親友で、トロンボーン・セクションのリーダーをお願いしています。
中川英二郎(トロンボーン)子供の頃から、天才の名をほしいままにしたソリストですね。彼も編曲やプロデュースなどいろいろし、クラシックもよくやっていらっしゃる、必要不可欠な人です。
半田信英(トロンボーン)半田くんは、中川英二郎くんのお弟子さんです。彼も、今はいろんな所で活躍している若手No.1のトロンボニストです。(1987年生まれで、本田雅人B.B.Stationにも参加)
山城純子(トロンボーン)二井田さんと同じく女性という枠を超えたプレイヤーで、力強いベース・トロンボーンを吹く方です。守谷さん、山下さん、小曽根さんのビッグ・バンドに入っています。
青柳誠(ピアノ、キーボード)ピアノやキーボードだけでなくサックスも演奏し、NANIWA EXPRESSで活躍しています。彼もアレンジャー、プロデューサーとして活躍もしている多彩なアーティストです。
納浩一(ベース)長年、とても頼りにしているベーシストです。エレクトリックもアコーティックも両方奏でる素晴らしいベーシストであり、このビッグ・バンドの中で要になっています。
川口千里(ドラム)このビッグ・バンドはいろんな方をぶつけ、新しい事を生まれるのを一つの要点に置いています。なので、今回はぜひ出ていただきたいなと思い、千里ちゃんに声をかけました。
岡部洋一(パーカッション)いろんな所で活躍していますが、パーカッショニストの中では異質な感じで、自分のワールドをしっかりと持っている方です。彼には今回、ぜひ助けて欲しかったんです」実は、サンボーンのお気に入りの奏者。彼の近年の2回のブルーノート東京公演に岡部は誘われ、アメリカ人バンドの中に唯一日本人として加わっている。
佐藤 英輔(さとう・えいすけ)
音楽評論家。ブルーノート・ジャズ・フェスティヴァルで来日するドナルド・フェイゲンに合わせた、雑誌やムックの特集の原稿依頼を山ほど受け、彼のすごさを再確認。