ヒップホップ~ビート・ミュージック、レアグルーヴ・ファンも巻き込み、日本のメジャー・シーンともリンクした幅広い活動でジャズを一新する注目のアーティスト、カマシ・ワシントンとクリス・デイヴ。コミュニティや自身のルーツに重きを起き、ジャズをストリートに回帰させた彼らの最新ステージに迫る。
近年DJ現場で訴求できるナンバーがどんどん生まれているが、その突破口となるのがカマシ・ワシントンとクリス・デイヴだ。ルーツをしっかりと感じさせるスタイルと、横の広がりを大事にした生き生きとした彼らの音楽を通して、過去のレコードや関連ミュージシャンを取り上げることができる。縦にも横にも広がりを持って今のジャズを提示できるのだ。
MPCでのビートメイクを思わせるクリス・デイヴのサウンドは、ヒップホップ、特にJディラのファンを振り向かせ、ジャズドラムにおいてもトレンドのひとつとなった。このリズムスタイルがマニアのものでなくなったというムードは、宇多田ヒカルの最新作にクリスがフィーチャーされたことで更に加速している。現在メジャー・シーンでも万能に活躍するクリスだが、彼は地元ヒューストンのカシミア・ステージ・バンド(当時の盤はレアグルーヴとして人気)のトップドラマーだったクレイグ・グリーンからドラミングを受け継いでおり、その地域のルーツに根ざしたリズム感にグッとくるファンもいるだろう。
2015年、ブルーノート東京でのライブ。燃えるようなブロウに、若いオーディエンスたちが熱い声援で応えた。
KAMASI WASHINGTON
2015 10.30 – 11.1
photography = Makoto Ebi
カマシ・ワシントンの魅力は、パワフルで野生的なテナースタイルと、ヴォイスやストリングス・アレンジで変化を求めた、かつてのジャズ・シーンの片鱗を見るようなサウンド作りだ。それと同時に彼の存在を通して、地元L.Aの現代版“ザ・ユニオン・オブ・ゴッズ・ミュージシャンズ・アンド・アーティスツ・アセンション”のような、コミュニティ・ミュージックとしてのジャズの在り方を再認識できることも意義深い。
今回のラインナップをみてみると、カマシ・バンドでは、前回の来日でゲスト・フィーチャーされた実父、リッキーが正式にクレジットされ、今回はキャメロン・グレイヴス(p)の参加も決定。彼のクラシカルかつ現代的アプローチは、リリースされたばかりのデビュー作でも聴くことができるが、フェスでのステージングも大いに楽しみなところ。先日リーダー作が発表されたばかりのメンバーも総動員で『The Epic』楽曲の最新アレンジを披露してくれるだろう。
アーティストからの評判が高い、インディペンデントな音楽をメインに紹介する米シアトルのFMラジオ局“KEXP”でのカマシ・ワシントンのライブ。
Kamasi Washington – Full Performance (Live on KEXP)
→ ARTISTS|カマシ・ワシントン(9.24 sun.出演)
また、クリス・バンドのラインナップは、シンガーの起用が目立ち、彼のバックグランドにあるゴスペルのルーツに戻ったような新しいステージングになるに違いない。近年の公演でお馴染みのボビー・スパークスは、RHファクターでの参加となる代わりに、今回はマーク・キャリーとの来日公演も記憶に新しいダニエル・クロフォード(key)が加わる。フェラ・クティ・オマージュの楽曲でも人気の彼と、フランク・モカとのポリリズム的「Zombie」カヴァーで会場を沸かせるクリスとのタッグなだけに、彼らが繰り出す最新のアフロナンバーにも期待が高まる。
MPCでのビートメイクを思わせるクリス・デイヴが奏でるリズム。
DRUMHEDZ CHRIS “DADDY” DAVE IN NEW YORK CITY 01/06/2017 BOWERY BALLROOM
→ ARTISTS|クリス・デイヴ & ザ・ドラムヘッズ(9.24 sun.出演)
2人とも年内の新作が予想され、最新トラックも発表済み。話題の渦中にある両バンドは、どちらもツイン・ドラム/パーカッションでのステージだ。厚みのあるリズムと、ルーツに根ざしたディープな音色を全身で楽しみたい。
2017年6月に公開されたChris Daveの最新ミックステープ『Chris Dave Presents The Drumhedz Radio Show』。
Chris Dave Presents The Drumhedz Radio Show (FULL MIXTAPE)
2017年9月にリリース予定の『Harmony of Difference EP』からの最新トラック「Truth」。
Kamasi Washington – Truth
大塚広子(おおつか・ひろこ)
DJ、音楽ライター。過去〜現代ジャズを繋ぐスタイルで、クラブシーンでの活動のみならず、評論家やミュージシャンを交えたイベントプロデュース、執筆、自身のレーベルKey of Life+でのリリース活動も。